概要
南米・ボリビアに位置する火山"Uturuncu" (Uturunku, ウツルンクは, 広域にわたって急激(最大>1 cm/y)な隆起が継続的(少なくとも約20年近く)続いていることで地球科学的に非常に注目を集めている. カルデラを形成するような巨大噴火(VEI-7~)は, 地殻浅所に形成された大規模なマグマ溜まりからの噴出により引き起こされる. Uturuncuではこのようなマグマ溜まりが, より深い中部地殻(深さ15-25km, 後述のAPMB)からの多量のマグマの上昇により現在進行形で形成され始めているのではないか, と考えられているのである.
Fialko, Y. A. and J. Pearse (2012) AGU Fall Meeting, G41B-06.
地域的背景
- 南米はEPR(東太平洋海膨/海嶺: East-Pacific rise)から生まれた新しい海洋プレートが沈み込む陸弧のテクトニクスとなっている. 火山フロントはflat-slab segmentの存在により2箇所途切れている部分があり, そこを境におおよそ北部・中部・南部に区別される. (発達史・広域地質などはこのサイトに図が多い)
- 中部の北半分は地理的にAltiplanoとPunaと呼ばれる地域からなり, Aptiplano-Puna Volcanic Complexと呼ばれる10Ma以来の激しい火山活動の場となっている. de Silva et al. (2007) によれば, この地域は8Maと4Maを始めとした大規模噴火のクラスタリングがみられ, 一般的なarcの数倍~10倍以上の噴出率を示す.
- この地下約15-25km(文献により多少異なる)の地殻内にはAPMB(Altiplano-Puna magmatic body)と呼ばれる広大な異常域が知られており, 地震波には超低速度(Vs<1km/s)かつ高減衰な部位として観測される(Zandt et al., 2003; 代替リンク). 従ってこの異常域は極めてmelt-richな状態と解釈されている. また電磁気探査でも深さ60km(Moho付近)まで高伝動度域が観測されている(Schilling et al., 1997).
Keywords:
- PLUTONS
- ...UturuncuとLazufreをターゲットにした国際調査プロジェクト
- Pluton
- ...地質として一般に観察される, 地殻内に形成される大規模なマグマ溜まりが冷え固まったと考えられている岩体. Uturuncuの隆起を引き起こしているものは, まさにこれであるというのがPLUTONSプロジェクトのコンセプトの模様. なおPlutonの複合体(或いは親)をBatholithと呼ぶ. (模式図)
- InSAR / 干渉合成開口レーダー (Interferometric synthetic aperture radar)
- 人工衛星などに搭載されたレーダーにより地殻変動を観測する技術. 地上でのGPS観測に対して①観測地点を設置する必要がない ②点ではなく面で変動を観測可能 という点で優れる. 欠点は人工衛星の視線方向の変動しか測定できない, 人工衛星が通過しないとデータが得られないので短期間の変動の監視には向かない, など. 精度は近年の技術的向上によりGPSに匹敵しつつある. 具体的な手法と日本での成果については, 国土地理院のサイトが詳しい.
主な論文
- ★Sparks et al. (2008) AJS. (※代替リンク)
Uturuncuで起こっている「ソンブレロ(南米の麦わら帽子)状の隆起」について.
- ★Jay et al. (2012) BV.
- Ambient noise tomography. (微妙であまりinformativeではない)
- b-valueは1でtectonic origin(通常型). Hydrothermal originなら一般的には2になるはず.
- 2012/02/27のチリMaule地震(M8.8)の地震動により地震活動の励起が起こった. 具体的には, 最初のレイリー波(R1)及びラブ波(G1)の通過に伴い励起が起こった. R2~/G2~それぞれの通過時にも再度活動が励起された.
- 後述のHenderson et al. (2013)の①モデルに相当する図(Fig. 6)を描いている.
- ★De Potro et al. (2013) GRL.
- 重力異常から求められたAPMBの3Dモデル.
- 後述のHenderson et al. (2013)の③モデルに相当するものを主張している.
- ★Henderson et al. (2013) G-cube.
- 中部アンデスには数多くの地殻変動域が存在するが, 広域にわたって(>1万平方km)長期間(>10年)で大きな(>1cm/y)の変動レートを示すUturuncuとLazufreの隆起が顕著である.
- Uturuncuは20年間一定の速度(最大約1cm/y)で隆起していることが特徴 (Fig. 5).
- Uturuncuの変動源について改めて3つのモデルを提示(Fig. 7). ①モホ(-75km)からAPMB(-15km)への移動, ②APMB内での側方移動・集中, ③APMBからダイアピルが生成されようとしている(②の拡張).
- Lazufreは形状が非対称かつ速度が一定でない, Uturuncuより急激な隆起が特徴.
- Lazufreは2002年頃から劇的に隆起速度を増し, 2005-2010では3cm/y前後にまで達する (Fig. 9)
- カルデラであるCerro Blanco/Robledoではカルデラの範囲で沈降(-1cm/y)が見られる.
その他新しい学会発表などから
- ★De Potro et al. (2013) AGU.
- 近傍の湖の堆積物からは, 総隆起量は30mを超えない
- 隆起速度は1965年からほぼ一定(当時から使われている測量ラインを再測定?)
- ★West et al. (2012) AGU.
- 群発している非火山性の地震の原因として, 貫入による破壊が原因である証拠はなく, むしろ高いヒートフローがもたらす歪の増加に原因があるかもしれない
- ★De Potro et al. (2011) AGU.
- 重力異常により中部アンデスで4つの異常域を検出
- APMBについて, <30 vol. %のdegree of partial meltingと見積もる
調べ物用リンク
- Google Scholar: "Uturuncu"
- Google Alert: "Uturuncu"
- Publications - PLUTONS
- AGU Abstract Browser: "Uturuncu"
感想
- Batholith/Plutonのような深成岩体と, 上部地殻-陸上で起こる火山活動. この2つは本来一連の系として捉えるべき事象であるが, 今までアプローチの乏しさ故に困難であった. Uturuncuはその突破口の一つとして非常に期待される.
- APMBの存在は, 陸弧のようなプレート収束境界でも中部地殻にメルトが大量に生成され得るという実例を提示してしまった. もう後には戻れない. リフトや中央海嶺ならそれほど違和感のない話だけれども. さて, 日本ではどうだろうか.
- 地震がクラスタリング(まとまって発生)を起こすことはよく知られるようになってきているが, 火山噴火も同様にクラスタリングを起こす事が指摘され始めている. 前述のDe Silva et al. (2008)でもこの地域で顕著な巨大噴火のクラスタリングを示している. 同地で起こっている劇的な地殻変動は, 地殻スケールの現象がその背景にある事を示唆しているように見える. 大規模噴火のポテンシャルとは果たして何なのだろうか.
- 大規模珪長質マグマ溜まりがどのように形成されどれほどの期間保持されるのかは, 大規模噴火を考える上でのメジャーなトピックの一つである. 火山としてのUturuncuは200ka噴火していないため, 岩石学的にはそれ以降の進化は見ることができないということになる. 掘削するのはちょっと怖い.
- Deep pluton?などと言われているカルデラのモデルはあるが, ダイアピルの深さ7-12km(??)はちょっと深い気もする. まだ噴火に至るまでに何ステップかあるのではないだろうか. むしろ(地質的時間スケールで)切迫しているのはLazufreかもしれない? またUturuncuもたまたま20年間一定なだけかもしれない.
- カルデラ噴火に至る前に隆起(Tumescence)があるというのはよく指摘されているところ. Polygonalな陥没は, それに先行する隆起による割れ目の影響と指摘するモデル研究も多い. 総隆起量30m未満, というのは何にも代え難い貴重な実例報告であるが, ちょっと少ないイメージ. 噴火に至る頃にはどのぐらいに達するのだろうか.
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