2016年11月11日金曜日

学生の自費フィールドワーク文化は何が問題か?


発端


自費フィールドワーク文化とは何か?

  • 野外調査や学会参加など教員なら研究費として処理するようなコストを、カリキュラムで課された活動の一部であるにもかかわらず自費で補填する文化。
  • 何十年も前から続いてきた伝統的文化。現在の教員たちもそうやって育ってきた。
  • 基盤経費が減らされているので、教員も使える金が無い(当事者でないのでよく知らない)

(11/13追記) 反響ツイートがあったので、Twitterのモーメント(まとめ機能)でまとめました。当事者の経験、安く抑えるコツ、教員側の努力など。


何が重大な問題なのか

  1. 所定の学費に上乗せされる「事実上の追加学費」となる
  2. 学生の立場・経済状態を悪化させ、ハラスメントの温床になる
  3. 学生研究の責任の所在が曖昧になる
  4. 優秀な人材を遠ざけ、結果的に分野を没落させる
何れも現代の社会通念では容認されない内容ではないだろうか。
1.は論理的な問題と、社会的選別の問題をはらむ。2.は言うまでもなく、度々耳にする不幸で深刻な問題。3.は当事者の研究倫理を歪め、また事故や不正が起きた場合に追求が難しくなる。そして4.は、それらのフィールドワーク分野を卒業したからと言って損失を回収できるような就職先が安定的にある訳ではないので当然想定される帰結。

また日本独特の問題として、かなりの数の学生が研究で収入を得ていないことに留意が必要。例外は学術振興会特別研究員など(←フィールドワーク分野の採択率が低いという愚痴はよく聴くので、誰か検証してほしい)。


自分の居るオーストラリアの場合

カリキュラムの初期段階として研究計画の提出が求められ、その時点でどれだけの研究費が必要か明確化される。そこで示された額は教員が金の算段をしなければならない。加えてそもそも卒論研究(選抜者のみ)から給料が支給される。多分ヨーロッパも大体そんな感じなのではないか。アメリカは色々ありそう。


どれほどの自費が費やされているのか

自分の場合、日本に居たM1・M2・D1の3年間を平均しておよそ30万円/年ぐらいだと思われる。これに加えて、学科内の研究助成と学会参加補助で3年間で総額50万円の支給を受けた。またそれと別に、学生支援機構1種のローン(敢えて奨学金とは書かない)を受けており、幸運なことに卒業後返還免除となった。

ちなみにツイッターでアンケートを取っている最中だが、やはり相当な数の人が普通に年間数十万円も自費を突っ込んでいる…

どうあるべきだろうか?

現状では、よっぽど小口の使途でもない限り教員が競争的資金などを切り分けて学生に与えるしかない(?)らしい。しかしそもそも、学生研究に、プロ研究者(指導教員)に課された「選択と集中」の枠組みを当てはめるのはとばっちりでは? なぜなら、教員の学術的生産性と学生への教育能力は比例しないので。

したがって、プロ研究者による競争的資金とは別に、学生の為の研究費が安定的に確保される必要がある。学生がある程度独立した経路で研究費を得るようにすれば、ハラスメント事案の抑制効果も期待できるのではないか。もちろん全ての学生の手に届く小さな資金と、学生間の競争を経て手にできる大きな資金のハイローミックスな状態が良い。

そして先進国のスタンダードになりつつあるように、使徒管理が厳格な研究費だけでなく、ベーシックな給与も合わせて全ての院生に必要だろう。研究費だけでは、現在の研究テーマに結びつかない研鑽(フィールドワーク分野で言えば例えば巡検)には使いづらいので。


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