先月、調査でニュージーランドのオークランドに立ち寄る機会があり、かねてから気になっていたランギトト島に行ってみた。同島は直径6kmの円形の島で、約500+年前に誕生した火山島である。
(ランギトト島の場所。オークランドの沖合にあるが、市街から直接は見えない。)
ランギトト島とその中心に聳えるスコリア丘 |
概要
オークランド市街は(日本の伊豆東部のような)単成火山群の上に位置しており、多数のスコリア丘・マールなどが存在している。ランギトト島はそれらの中で最も新しく、最も大きい(>2km3)。単成火山と言いつつどうも2回の火山活動からなるようで、Needham et al. (2011)によればアルカリオリビン系列のマグマを噴出した553±7と、ソレアイト系列を噴出した504±5 cal. BPからなるらしい。第1ステージでは浅海火山の典型で、当初はマグマ水蒸気爆発を繰り返し、徐々に成長して海水の混入が減ると溶岩流出に移行した。そして続く第2ステージでは少し離れた位置から噴火が再開し、現在の中央のスコリア丘を形成しながら更に島の大きさを拡大させたようだ。(この辺は同論文のFig.4に分かりやすいイラストがある)。またマグマに関する考察はMcGee et al. (2011)がある。*年代に関しては、事前に手に入れたある巡検資料には800年前、更に古そうな本には1000年以上前と書かれていた。マオリ族は10世紀頃にはNZに上陸しているはずなのだが、特に伝承などはないようだ。
船着場に設置されていた看板の写真 |
西之島との比較
どちらも溶岩流出を主体として新たに誕生した火山島ということで、共通点がある。噴火2周年を迎えた小笠原の西之島は、直径約2km。ランギトト島は直径6km。
後者は噴火2回分とは言え、並べてみるとやはりかなりの差がある。玄武岩~安山岩の噴出レートの議論はあまりフォローしてないが、多かれ少なかれ噴火期間よりも噴出レートの差によるものだろうと思う。
そもそもランギトト島自体も、オークランド火山群で特異な規模とされている。地質構造による制約が全く見とめられない火道分布を示す同火山群で、エリアの外れにぽっかりとこのような巨大な火山島ができてしまったのは不思議なことだと思う。地質学/火山学はやはり難しい。
西之島(左)とランギトト島(右)のサイズ比較。 西之島は海上保安庁によるオルソ空撮画像。 ランギトト島はオークランド政府のオープンGISデータより(色調整済み)。 |
行き方
オークランド中心部の港から高速船に乗船。1日3便。http://www.fullers.co.nz/tickets-fares/timetables/rangitoto-island.php
それなりのお値段するが、オークランドと湾周辺の景色も楽しめるので妥当なところか。
船から見たオークランド市街 |
上陸
着いて真っ先に感じたのは、凄まじく大きいということ。スコリア丘や溶岩洞窟など面白いものは島の中心部にあるのだが、そこに辿り着くまでが非常に長い。10:30のフェリーで上陸し2:30のフェリーで帰ったのだが、ひたすら歩いた(およそ20kmちょっと)。スニーカーの靴底が擦りきれて、後で大変なことになった。自然保護区に指定されているので、店などは無い。十分な水と兵糧が必要。主要な道は未舗装整地路。
この日は工事の関係で、普段船が着く島の南側ではなく、西にある隣島との接合部の港に着岸した。
上陸地点からスコリア丘方面を臨むと、島とは思えないほど彼方に見える |
島の様子
海岸では溶岩じわがあったり、分岐した溶岩流が重なり合っていたりする。次行く機会があったら、島を一周して見て回りたいところ(なお直径6kmの円周は計算上18kmあるが…)。島の内部は植生が旺盛で、観察できる場所はあまり多くない。しかし幾つか植生が開けた場所があり、クリンカーと<10m程度の波長の起伏を持つ溶岩源が広がっている。
クリンカーが発達した溶岩原 |
大分近づいてきたスコリア丘 |
スコリア丘
スコリア丘は例によってかなり急峻なので、上りは少し遠回りでも板張りの階段があるルートが楽。そこへ至る途中に、斜面が少し崩落して断面が観察できる露頭がある。(とは言っても、3-4つぐらいしかスコリア丘の断面を見たことがないので、「典型的なスコリアの互層」以上の感想を抱けなかったが…)スコリア丘の露頭 |
隣接島との接合部方面を臨む。状況的には桜島の大正溶岩に似ているか。 |
山頂火口 |
オークランド市街方面。手前の緑色の丘はデボンポートのMt. Victoria. |
溶岩トンネル
スコリア丘を少し降りたところから、溶岩トンネル方面への道が分岐している。この道は未整地で、溶岩のクリンカーがゴツゴツしたところを乗り越えていく。すり減ったスニーカーには堪えた。溶岩トンネルは複数あり、道の最奥にあるものが一番立派で長い。完全に天然状態であり、懐中電灯とヘルメットが欲しいところ。写真のように天井が崩落して空が見えているところがあり、木が生えていた。
溶岩トンネルを少し進んだ所にある崩落部 |
一回溶岩トンネルを歩いてみると、他の道端でも溶岩トンネルが頻繁に足下を通っていることに気づく。興味深いと思ったのは、周りより太い木が生えていて違和感→実はその木はトンネル内から生えている、という発見のパターン。彼らが島で最も早くに育った木なのだろうか。
溶岩トンネルから生えている木 |
その他
デボンポート(オークランド対岸)に、演習でもあったのかNZ海軍の船が勢揃いしていた。(カンタベリー級と、フリゲート2隻と...もしかして: これで全部)
カンタベリー級多目的艦(左)。海洋研究調査にも駆りだされているらしい。 |
頭上をかすめていった対潜ヘリ |
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